社長からのメッセージ
「神々は細部に宿る」 株式会社 私の部屋リビング
代表取締役社長 前川睦夫

私の記憶は30年前に始まります。確か小学三年生のころ、枕もとに父がいます。「まだ誰もやったことのない素晴らしいアイデアがある。今の仕事をやめて実現させたい。儲からへんかったら君たちは学校に行けなくなるかもしれないが、賛成してくれるか」すこし関西弁だった気がします。薄暗い部屋の中で、じっと聞いていた姉が答えました。「パパやってよ。応援するからがんばってね」私も元気よく賛成したはずだ、と父は話しています。

程なく、雑誌「私の部屋」が創刊され、「ファミリーブティック私の部屋」1号店が日本海を臨む小さな街に生まれました。父の予言どおり「儲からない」日々が続き、何度か引越ししました。やがて、スウェーデン製の木製プレハブハウスを建てて住むことになりました。北欧のポップなカーテンやブリキのシェード、ボーリング場のレーン用木材を使った家具、和風とも洋風ともつかない厚手の食器に囲まれた日々を送ります。外壁もすべてピンクに塗り替えたりするので、友達が迷わず訪ねてくるためには好都合でした。「前川の家は変わってるぞ」と言われてはじめて気が付きましたが、楽しい生活でした。「外は雪が積もって寒いのに、どうして家にはこたつがないんだろう」と思いましたが言いませんでした。父にとって自宅は、お店同様に「私の部屋」を表現する場所であり、自分自身がお客様の目で厳しく「私の部屋」をチェックする場だったのだと思います。

時が流れて、私も新しく家族をつくり独立しました。自分たちの商品を使ってみて、ああでもないこうでもないと動かしてみたり、子供に壊されて悲しんだりしています。私たちのスタッフは皆同じように暮らしているはずです。「この花器にはこんな風に生けたらきれいなんだ。明日お店についたら早速やってみよう」スタッフの工夫や発見がお店をつくっているのです。「私の部屋」を訪ねた皆さんが感じるのは、スタッフ一人一人の自分の暮らしへの思いなのです。私たちのディスプレイをじっと眺める姿、「帰ったら私もこんな使い方してみよう」と思ってにっこりされる様子がたまらなく嬉しく感じます。心が通い合うような気がします。私たちの暮らしを好きになってくれた皆さんが大好きになります。そして、もっと喜んで欲しくて、もっとびっくりさせたくてまた商品を探したり、新しいアイデアを考えていくうちに、私たち自身の暮らしも変わっていくのです。

薄れていく記憶を思い出すきっかけを作ってくれた著者の小澤さん、奔走していただいた丹治さんをはじめ製作に携わった皆さんに感謝しています。そして快くプライベートな空間を提供いただいた9人のお客様、お知り合いの方々ありがとうございました。「私の部屋」を支えてくれたかつてのスタッフ、そして今、自分の家事以上に細かいお店の仕事に愛情を注いでくれるスタッフに心からお礼を伝えたいと思います。

日々の暮らしは単調な繰り返しのように思えますが、毎日確実に変化しています。生活の細部を大切にすることが私たち自身を豊かにして、いつか社会をより良く変化させていくと信じています。「神々は細部に宿る」という言葉が好きです。立派なスローガンやたいそうなコンセプトよりも、志を持った小さな営みの積み重ねが私たちを豊かにすると考えています。この本を手にとってくださった皆さん、本当にありがとうございました。お店でもお会いできることを心より願っております!

※2004年4月発刊「Basic Life それぞれの暮らし、まいにちの暮らし」(メディアファクトリー)より

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